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2009年9月30日、その発祥から様々な変遷を経て現在に受け継がれるタンゴが「ユネスコ無形文化遺産(※1)」に登録されました。 |
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この登録への申請は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス市とウルグアイの首都モンテビデオ市の連名でおこなわれました。日本ではあまり知られていませんが、タンゴはアルゼンチンのみならずラプラタ川の対岸のウルグアイでも音楽ダンスの文化として育まれてきたという経緯があるからです。普段は似た者同士で敵対視することの多いアルゼンチンとウルグアイですが、タンゴという共通項のために互いに手を取り申請・登録へと至ったものです。 |
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ユネスコ無形文化遺産に登録される文化は「口承による伝統及び表現」「芸能」「社会的慣習、儀式及び祭礼行事」「自然及び万物に関する知識及び慣習」「伝統工芸技術」といった内訳があり、いづれかの項目を満たす必要がありますが、アルゼンチンタンゴの場合「芸能」としての側面はもちろんのこと、毎夜のようにおこなわれ市民が集まるタンゴパーティー(ミロンガ)のような「社会的慣習」、また歌い継がれるタンゴ曲の歌詞や、師匠から弟子へと受け継がれるタンゴ音楽の演奏法やダンスの技術、そしてその精神は「口承による伝統及び表現」の側面も持ち、タンゴの様々な文化としての在り方が認められ、無形文化遺産として認可されました。 |
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このユネスコ無形文化遺産は、世界遺産の一項目「危機遺産」と似た定義を持っています。すなわち、存続の危機のある文化を地元の若い世代へ継承すること、国内、国際的な普及を極力自力でおこなうことを目的としているのです。現在タンゴは、世界中に認知され演奏され踊られているものの、アルゼンチンの若い世代がタンゴについて正確な知識と伝統を継承しているかというと、残念ながら一部に過ぎないのが実情です。このため、ブエノスアイレスとモンテビデオの両市が年間3,000,000米ドルを捻出し、タンゴの普及・保護・継承のための様々な取り組みをおこなっています。 |
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無形文化遺産登録前から、ブエノスアイレス市がおこなってきたタンゴ普及の代表的な催しに、世界最大のタンゴフェスティバルとタンゴの世界選手権が挙げられます。このふたつは、毎年8月にブエノスアイレスで約2週間に亘って開催され、世界中からタンゴ愛好者やツーリストが訪れる大規模な催しです。フェスティバルではタンゴの世界的音楽家や若手のミュージシャンのコンサート、多ジャンルとタンゴを融合させた新しいタンゴ音楽の演奏や、世界的ダンサーやタンゴカンパニーのショーも無料で公演。タンゴ世界選手権では世界各地から集まったタンゴダンサーたちがサロンタンゴ部門とステージタンゴ部門の2部門で華麗に競い合います。そして、決勝の模様は例年全国放映され、また2012年からはインターネット放送で世界に無料発信されています(※2)。 |
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この他にも、アルゼンチンでは12月11日は「タンゴの日」、7月11日は「バンドネオンの日」(※3)に定められ、例年ブエノスアイレスはもちろんアルゼンチン各地でタンゴの催しが大々的におこなわれてきました。 |
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現在、未来を担う子ども達にタンゴをより深く知り触れてもらおうと、ブエノスアイレス市公立小学校のカリキュラムにタンゴの歴史・音楽・歌詞・タンゴダンスの授業を取り入れようと市民団体の活動が進められています。2012年時点では正式なカリキュラムかは実現していませんが、世界的に有名なバンドネオン奏者が公立小学校を回り子ども達に演奏を聴かせたり、タンゴについての講義をおこなうなど次世代へのタンゴ教育が盛んになりつつあるのです。 |
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熟練の踊り手の方たちのなかには、年月を経て身体にしみ込んだサロンタンゴをレッスンを通して若者に手取り足取り惜しみなく心底丁寧に教えている方も多くいらっしゃいます。こうしたレッスンでは、アルゼンチンという厳しい社会の中での人間としての尊厳ある生き方(ひいては、先進諸国の違う意味で厳しい社会で生きることへの教訓にもなります)、異性への敬い、仲間との絆、その他タンゴを踊るだけに留まらないたくさんの知恵と経験を若い世代に託していることです。本校主催のサエ&フアン・カルロスもこうした往年のマエストロ方からの熱心な指導を受け、伝統のサロンタンゴを習得しました。 |
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アルゼンチンタンゴ文化はアルゼンチンを代表する文化遺産として大切に保護され、未来へと継承されています。トラディショナル・アルゼンチンタンゴ・ダンススクールでは、このアルゼンチンタンゴ文化を日本、そしてアジアへ普及する活動をおこなっています。 |
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(※1)無形文化遺産とは、それまでの世界の特異で優れた自然や建造物など有形の物件を対象に登録をおこなってきた世界遺産の定義に含まれず、独特でありながら国際的な保護から取り残されてきた「口承による無形の文化」すなわち世界各地の芸能・風習などに焦点を当てて取り決められたユネスコ条約「無形文化遺産の保護に関する条約」に登録された人類の遺産を指します。 |
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※ 2)タンゴ世界選手権には世界各地に予選大会があり、東京(またはその近隣都市)でも毎年タンゴ世界選手権アジア大会が開催され、レベルの高い戦いが繰り 広げられています。本校主催のサエ&フアンカルロスはこのアジア大会のサロンタンゴ部門のチャンピオンで、ブエノスアイレスの本戦でも300組を超えるペ アの中から勝ち残り、2007年と2010年のサロンタンゴ部門ファイナリストとなっています。 |
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(※3)「タンゴの日」にはフリオ・デカロというタンゴ音楽の巨匠とタンゴの伝説の歌手カルロス・ガルデルの誕生日だった12月11日が選ばれました。余談ですが、ガルデルのレコード原盤はユネスコの世界遺産、無形文化遺産と並ぶ三大事業のひとつ「世界記録遺産」に登録されています。また「バンドネオンの日」はバンドネオン奏者でタンゴ音楽一の人気を誇ったアニバル・トロイロの誕生日で、2012年現在、「バンドネオンの日」を世界的に認知してもらおうと親族によりユネスコ登録を目指した署名活動が行われています。 |
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